運送業界はいまどうなっているのか

「1時間で届く、毎日のお買い物」 Amazonが進める即日配送サービスは、次々とエリアを拡大している。
「1時間で届く、毎日のお買い物」 Amazonが進める即日配送サービスは、次々とエリアを拡大している。

「運送」が、話題になること機会が増えています。

例えば、「Prime Now」。Amazonが昨年11月に始めたサービスで、注文から一時間以内に商品を届けてくれるサービスです。開始した当初は、都内8区および川崎の一部エリアでスタートしたサービスですが、現在では、千葉や大阪などの一部エリアにもサービスを拡大、話題を集めています。

また、少し郊外に足を運べば、東京、名古屋、大阪の近郊には、真新しい巨大な物流センターが次々と建築されています。

一見、景気のよさそうな運送ビジネスですが、その反面、トラックドライバー不足や、「荷物を運んでくれない」といった声も漏れ聞こえます。

日常生活においては、欠かすことができない運送。
私どものような製造業にとっては、製品をお客様のもとに届けるために、運送は欠かせないものですが、運送業界が現在抱えている課題や問題は、意外と知られていません。

今回は、運送業界の現状について、主に運賃を観点として整理してみましょう。

「ヤマト、一斉値上げへ 法人向け / 脱デフレ、物流にも」
2014年3月12日の日経新聞一面を飾った記事の見出しです。もちろん、「ヤマト」とは日本通運に次ぐ業界二位のヤマト運輸のこと。

 

記事を要約します。
「宅配便市場の拡大にもかかわらず、競争が激しい法人向け単価の下落が続くことから、ヤマト運輸は、人件費や燃料費の高騰分を運賃に反映、法人顧客に対して、一斉に運賃の引き上げを要請する。料金表そのものは変更しないが、荷物のサイズに応じた料金表を正確に反映した運賃を回収することで、実質的に値上げをする」 

実は、前年より佐川急便を始めとする路線便各社は、これまでなし崩し的に受け入れてきた規定外サイズの荷物を受け入れ、実サイズとは異なる運賃を適用することで、値下げ競争を行ってきました。 

「ヤマト運輸は宅急便の平均単価が02年度に710円だったが、13年度見通しは577円で約2割下落している」
記事中では、このように書かれています。 

この記事が掲載された時期を前後して、トラック輸送における運賃は、現在まで上昇を続けています。 

2015年4月に調査された運賃相場をご紹介しましょう。
まずは、路線便(特積み)運賃から。
運賃タリフというのをご存知でしょうか。ごく簡単に言えば、運輸省(現在の国土交通省)が物価にスライドさせる形で数年に一度公示していた、運賃表のことであり、路線便の運賃テーブルでは、今もこの運賃タリフが広く用いられています。 

現在、主に使用されている運賃タリフは、6つです。
昭和に公示された昭和55年タリフ、昭和57年タリフ、昭和60年タリフ。
そして平成に入ってから公示された平成2年タリフ、平成6年タリフ、平成11年タリフの計6つ。
仮にここでは、昭和のみっつのタリフを昭和タリフ、平成のみっつのタリフを平成タリフと呼びます。 

2014年、2015年とも、もっとも利用されている運賃タリフは、昭和60年タリフ。
ただし、1年でこの割合は大きく変わりました。昭和タリフの利用割合は、約60%から約56%にダウン。逆に平成タリフが約40%から4%アップの約44%にアップしました。
もっとも運賃の高い平成11年タリフの上限値については、3%もアップしています。

 

運賃の上昇傾向は、路線便にとどまりません。
例えば、東京から大阪行きの貸切(チャーター)トラック運賃の場合、4t車では約2,000円、10t車では約3,000円値上がりしています。 

なぜ、運賃は上がったのでしょうか。
理由はいくつか考えられます。 

例えば、原油価格。
2013年11月から2014年6月までの8ヶ月で、原油価格は1バレル93.81ドルから105.24ドルまで高騰しました。原油高は、物流コストのアップに直結する深刻な問題でした。

東日本大震災の影響もあります。
震災の影響で、東北で活動していた多くの運送会社がトラックを失いました。さらに復興工事によって、東北に多くの建築資材等を運ぶ需要が発生、トラックが他地域からも東北方面に走るトラックは増えました。
反面、東北から運ぶ荷物は、壊滅的に減少しました。当たり前ですね、震災被害を受けた生産拠点は、生産を中止し、また海産物、農産物も、福島原発の影響で出荷が見合わせられました。

東北に運ぶ荷物は多いのに、東北から運ぶ荷物は少ない。
もともと、運送会社が長距離トラックを走らせる場合には、往路復路両方とも荷物を運ぶことで、採算の帳尻を合わせていました。
それが、東北から出荷する荷物がなくなったため、東北へ荷物を運ぶ運賃が値上がりを起こしたのです。 

東日本大震災の影響は、これだけではありません。
これまでであれば、トラックドライバーに流れてきていた人材が、震災復興事業の需要が高まるにつれて、物流産業ではなく土木建築産業に流れます。これも、深刻なトラックドライバー不足のきっかけとなっています。 

さらに、通販ビジネスの台頭も、トラックドライバー不足に拍車をかけます。
Amazonや楽天に代表される通販ビジネスは、宅配便をはじめとする物流資源を大きく消費します。 

「宅配再配達による社会的損失は、年間約1.8億時間、約9万人分の労働力に相当する」
これは、2015年10月に国土交通省が発表した衝撃的なレポートです。これだけの無駄が運送会社の自助努力で吸収できるわけもなく、運賃へ転嫁される一因となります。 

皮肉なことに、コンプライアンス意識の高まりも、運賃アップにつながりました。
トラックドライバーの勤務時間は、労働基準法に加え、貨物自動車運送事業法で厳格に定められています。最近頻発する観光バスによる悲惨な交通死亡事故は、運送会社にも大きな影響を与えています。違法な長時間労働が減った反面、運行回数を減らさざるを得なくなった運送会社は、売上の減少分を運賃アップで補おうとするわけです。

 

製造業のうち、製品の輸送をチャーター便に委ねることのできる企業は、運賃アップへの対策に選択の幅があります。
一方、製品の輸送を路線便に頼っている場合、路線便運賃の上昇は、コストアップに直結します。もともと、チャーター便を仕立てるほどの輸送ボリュームがないゆえに路線便を使っている事情があります。路線便運賃が上がったことを理由に、路線便の利用を取りやめることはとても困難なわけですね。

 

最後に、弊社と、気泡緩衝材業界の物流事情を少々お伝えしましょう。

エアセルマットのみならず競合他社製品を含む気泡緩衝材は、「空気」があることが製品の特長であり、緩衝性能、保温性能といった利便性のポイントとなっております。
しかし、この空気が、こと物流ということになると足を引っ張ります。 

ご存知のとおり、エアセルマットは、かさばります。かさばるということは、運賃が高いということです。製品の体積と比較し、安価なエアセルマットは、物流コストの比率も、いかんせん割高になります。この辺の事情は、エアセルマットの材料であるポリエチレン業界と十把一からげで議論ができない要因となっています。 

ある調査では、2014年度の製造業のうち、プラスティック・ゴム製造業における売上高物流費比率は、5.99%%であったとされています。しかし、弊社における売上高物流費比率は、同数値のさらに数倍となっています。 

前述のとおり、運送業界は苦境に立たされています。
苦境に立たされているため、そのサービスは(誤解を恐れずに言えば)柔軟性を失いつつあります。分かりやすく言えば、面倒な荷物、儲からない荷物は敬遠されるという傾向が加速しています。

わたくしどもの業界規模は、約200億円。対する運送業界の業界規模は、約14兆円。
業界規模の差はあまりにも大きく、運送業界が抱えるさまざまな問題の影響を、わたくしどもが受けるのは致し方無いともいえます。 

とは言え、弊社もただ手をこまねいているわけではありません。
例えば、共配。例えば、サテライト倉庫。需要地に近いところに外部倉庫を構え、またそこまでの行程やデリバリーの共配をデザインすることで、物流費の軽減に努力を重ねています。

 

今回ご紹介したエピソードは、現在の運送業界が抱える課題のごく一部でしかありません、わたくしども製造業は、物流なくしてはビジネスが成立しません。
だからこそ、わたくしどもは物流ビジネスであり、運送業界の動向に、もっとアンテナをはっておくべきなのかもしれません。

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