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「生分解性プラスチック」というと、そのまま自然界に放置しても、分解され、環境に悪影響を与えるような物質が残らないといった「環境に与える負荷がゼロ」あるいは、「ポイ捨てされても自然分解するプラスチック」というイメージを抱く人がいらっしゃるかもしれません。
たしかに「最終的に分子レベルまで分解され、二酸化炭素と水になる」というのは確かなのですが、生分解性プラスチックは、環境対策における万能の存在ではありません。
生分解性プラスチックに感して、ありがちな3つの誤解を解説しましょう。
生分解性プラスチックには、さまざまな種類があります。
そして、生分解する仕組みは、種類によって条件が異なります。つまり、生分解するシチュエーションは、生分解性プラスチックの種類によって異なるのです。
・代表的な生分解性プラスチックが、コンポスト・土壌環境・水環境で発現する生分解性
代表的な生分解性プラスチックについて、上図にまとめました。
生分解性プラスチックの1種であるPLA(ポリ乳酸)は、コンポスト下※のような高温多湿な環境では分解されますが、通常の土壌環境や水環境では分解されにくいです。
水環境では、PHBH(ポリヒドロキシブチレート・ヒドロキシヘキサノエート)のような限られた生分解性プラスチックしか、分解されません。
いかに生分解性プラスチックと言えど、分解に適さない環境におかれれば、結局マイクロプラスチックとして環境に残ってしまいます。
※コンポスト
主として、生ゴミなどの分解を促し堆肥にするための専用の集積場所・施設や、専用容器を指す。
つい先日、このようなニュースが話題になりましたが...
このニュースが話題になったのは、海に流れ込んでも自然分解される生分解性プラスチックがごく限られているうえ、「無色透明で、ポリプロピレンなどと同じ程度の強度と耐熱性を持つ」(後述します)という特性を備えているからです。
また、生分解性プラスチックが分解するまでに要する時間も悩ましいところです。
例えば、産業用の堆肥化施設のような温度や湿度、酸素などが適度に揃わった場所において、「60℃程度に加温する」「適度に土を切り返し、切り返す度に水分を補給する」といった処理を行えば、生分解性プラスチックも、比較的短期間で分解されるでしょう。
しかし、自然界では、このような分解に都合のよい条件が整った場所は稀(まれ)です。よって、自然界に放置された生分解性プラスチックが水と二酸化炭素に分解されるまでには半年から、場合によっては何十年も要することもありえます。
生分解性プラスチックと言えど、分解されるまでの期間は、マイクロプラスチックとして自然界に残ってしまうことは、多くの人が勘違いしているポイントです。
例えば、2019年にフィリピンの海岸に漂着したクジラの死骸の体内からは、40kgもの大量のプラスチック袋が見つかりました。その中には「生分解性」と書かれたレジ袋も見つかったそうです。
一般的なプラスチックは分解するまでに数百年かかると言われています。したがって、生分解性プラスチックのほうが、一般的なプラスチックよりも短い期間で分解されることは確かです。
しかし、「生分解性プラスチックだからポイ捨てしてもOK」ということではありません。その生分解性プラスチックの適性を考慮した、適正な処理は必要です。
生分解性プラスチックは、自然に分解しやすい性質ゆえに 、再生樹脂として再利用するマテリアル・リサイクルには不向きです。
むしろ、非分解性プラスチック(=生分解性プラスチック以外のもの)に混ざってリサイクル回収されると、リサイクルシステムに影響を与える可能性も懸念されています。
生分解性プラスチックが従来のプラスチックリサイクル工程に混入すると、リサイクルされた製品の強度などの品質が低下する可能性があり、リサイクルした製品が目的の用途として使用できないケースもあるでしょう。
また、生分解性と知らずに焼却に出してしまうと、生分解性プラスチックの特性を活かすことができません。
現在、一般的なプラスチックは、リサイクル技術が日進月歩で進み、リサイクル率も向上していますので、きちんと分別回収して、適正な処理をおこなえば循環リサイクルが実現します。
しかし、廃棄されるプラスチック製品における生分解性プラスチックの割合が増えると、リサイクルができず、焼却処理・埋め立て処理に頼らざるを得なくなるゴミが増えていく可能性があります。
そもそも、一般消費者に対し、「同じプラスチック製品であっても、生分解性プラスチックとそれ以外のプラスチックを見極めて、分別廃棄してくださいね」というのは、無理があるでしょう。
つまり、生分解性プラスチックは、既存のごみ処理システムへの悪影響や、リサイクル・プラスチックを原料とする製品の供給に支障をきたすことも考えられます。
生分解性プラスチックのことを知ると、「では世の中のすべてのプラスチック製品を、生分解性プラスチックに変えてしまえば、環境問題やゴミの不法投棄問題などは解決するのでは?」と考える方もいるかもしれません。
しかし、コトはそう都合良くはいきません。
生分解性プラスチックには、向き・不向きな用途があるからです。
例えば、この画像にあるような農業用フィルムは、生分解性プラスチックに向いています。
このフィルムは、「雑草が生えることを予防」「雨によって、肥料や土壌が流出することを予防」「保湿」「保温」などの効果があります。
農業用フィルムが生分解性プラスチック製であれば、農家の方々はフィルムを回収・廃棄する手間を省くことができます。
農業用途では、他にも肥料における皮膜剤としての活用が期待されています。
遅効性肥料には、肥料成分を小さなプラスチックの球で包み、時間が経つと球が破れて肥料成分が溶け出し、ゆっくりと効果を発揮するものがあります。
肥料における皮膜剤プラスチックが、畑から河川へ、そして海へと流出することで、マイクロプラスチック化する懸念が指摘されています。しかし、このプラスチック球を生分解性プラスチックに置き換えれば、マイクロプラスチックを防ぐことができます。
一方で、日用品に生分解性プラスチックを多用することは、慎重になるべきです。
例えば、ボールペンの軸に生分解性プラスチックを採用します。すると、本来であれば替芯を交換して使い続ければ、何年も使用できるはずのボールペンが、短期間で使えなくなります。
これは、「モノを大事に使い続ける」というリサイクルや環境保護における基本的な精神に反します。
また、「ファストフードなどで用いられるストローや容器に生分解性プラスチックを用いる」ということも慎重になるべきではないでしょうか。
これは、「ポイ捨てされることを前提として製品設計を行う」ということにつながりかねません。環境保護の観点から言えば、「ポイ捨てをさせないことを前提とした社会設計や教育」こそが、本来求められるはずです。
本稿ではあまり触れませんでしたが、生分解性プラスチックには、高コスト、強度不足、耐久力不足など問題もあります。
さらに別の問題もあります。
例えば、とうもろこしを原料とするPLA(ポリ乳酸)は、製造の過程で大量の水を必要とします。とうもろこしは生分解性プラスチックだけではなく、バイオエタノールの原料としても注目される、優秀な植物資源ですが、一方で食べ物として消費するのではなく、化成品として利用することで、本来の食料用途への供給量が減るという課題も指摘されています。
このように、生分解性プラスチックを論じる際には、ライフサイクルアセスメント※を考えたとき、「本当に生分解性プラスチックがエコなのか?」と論じる視点も必要でしょう。
私たち消費者が正確な知識を持つこと。
マスコミは正しく伝えること。
行政が適正な法律をつくり、各都道府県や自治体において循環する環境を整備すること。
これらが持続可能な炭素循環型社会に向けて必要になってくると思われます。
※ライフサイクルアセスメント
製品を製造するうえで、調達、製造、消費、あるいは廃棄・リサイクルされるまでの全過程における環境負荷などを考えること。
(品質・データ管理部 岡谷)