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2022年4月、プラスチックの資源活用を推し進める法律「プラスチック資源循環促進法」(通称、新プラ法)が施行されました。
今までプラスチックの分別収集と再資源化は、プラマークが付けられた容器包装プラスチックを対象に行われてきました。
新プラ法では、これまで分別収集と再資源化が行われてこなかったプラスチック製品についても、収集・再資源化を行うことを市区町村の努力義務として定めています。
製品プラスチックを回収するとはどういうことなのでしょうか?
また容器包装プラスチックに加え、製品プラスチックも回収することで、再資源化は行いやすくなるのでしょうか?
新プラ法施行に先駆け、以前から製品プラスチックの分別収集と再資源化を進めていた日野市にある日野市クリーンセンター・プラスチック類資源化施設(東京都日野市)を、東京営業所所長の太田が見学してきました。
この施設は、プラスチック類の一括回収を実施している先進的な取り組みとして、国や東京都、全国の自治体から数多くの視察を受け入れており、大きな注目を集めています。
※画像はすべてクリックで拡大します。
「あれだけ周知徹底をしていても、プラスチック以外のごみを、プラごみで出してしまう人がいるんですね」─太田が、「あれだけ」と言ったのには理由があります。
日野市に住む太田は、日頃から日野市がごみの削減や再資源化に向け、市民に向けてさまざまな活動を行っていることを知っています。太田自身、日野市が提供する「日野市ごみ分別アプリ」を利用し、ごみの分別に取り組んでいます。
日野市クリーンセンターに持ち込まれる分別ごみは、プラスチックごみ、不燃ごみ、粗大ごみ3種類です。それぞれ別の工程を経て、処理されます。
プラスチックごみは、ベルトコンベアで「プラスチック類ごみ破袋機」に運ばれます。ここでは、シュレッダーの刃を巨大化したような機械によって、家庭などから出されたごみ袋を破り、内容物を次工程へと送り出します。
「ごみ袋の中に、さらに袋に入れてごみを出されてしまうと、ごみ袋が破けず、次工程に進ませることができません」と教えてくれたのは、今回の見学をアテンドしてくださった日野市 環境共生部 日野市クリーンセンター 施設課の課長補佐 細谷雄二さんです。
この言葉に筆者、ドキッとしました。
コンビニ等で買ったお弁当の包装容器を、食事後、レジ袋に入れ直して、ごみ袋に入れてしまうこと、筆者もたびたび行っていました...
ダメなんですね、ごめんなさい。
個別にされたプラスチックごみは、「風力選別機」に運ばれます。
強い風を当てることで、重いもの、軽いものに分けられたプラごみは、「プラスチック類手選別室」に運ばれ、手作業でプラスチックとして資源化できないごみが取り除かれます。
プラスチック以外のごみを取り除いたら、今度は「プラスチック製容器包装圧縮梱包機」に運ばれます。ここで、分別回収されたプラスチックごみは、一辺1m、約270kgにまとめられ、再製品化すべく出荷されます。
「日野市は、全国に先駆けて製品プラスチックの収集と再資源化を行ってきましたが、その費用として年間約1800万円かかっています」と、細谷さんは教えてくれました。
この言葉の背景を説明するためには、まず包装容器についている、プラマークの仕組みについて説明する必要があります。
2000年、一般廃棄物の減量と資源の有効活用を目的に、容器包装リサイクル法(容リ法)が全面施行されました。容リ法では、包装容器を作るメーカーや、包装容器を用いるメーカーなどに対し、リサイクルのための費用を支払うことを義務化しました。メーカーなどから徴収された費用は、分別収集し再資源化を行う市区町村に再分配されます。
対して、製品プラスチックに対しては、まだこのような制度や仕組みができあがっていません。したがって、新プラ法によって製品プラスチックの収集と再資源化が市区町村の努力義務となったものの、そのコストは市区町村の自腹になってしまうわけです。
このあたりは、法律が先行し、仕組みはこれから作っていくのでしょうが。新プラ法に則り、「製品プラスチックの収集と再資源化を開始しますから!」と自治体側が宣言したところで、住民の理解を得られず、実施できないケースも、起こりうるのでしょうね。
「この分別方法だと、うち(和泉)が気泡緩衝材エアセルマットの原料とするのは無理ですね...」と、東京営業所所長の太田は、見学終了後、ポツリと呟きました。
和泉の気泡緩衝材エアセルマットは、その品質の高さ──例えば、透明度の高さなど──を、お客さまからご評価いただいています。エアセルマットには、帯電防止、防錆機能などの機能性を付加するための添加剤などを加えている製品もありますが、主たる原料はプラスチックの一種であるポリエチレンです。
一方で、日野市クリーンセンターで行われている分別方法だと、ポリエチレン以外のプラスチック(ポリプロピレンやポリ塩化ビニルなど)も混ざり、プラスチックという大枠のくくりで再資源化の材料として提供されることになります。
勘違いしないでほしいのですが、日野市クリーンセンターの分別方法を批判する意図はまったくありません。今の技術や分別作業に掛けられるコストを考えると、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルなど、プラスチックの種別ごとに分別するのは不可能でしょう。もしそんなことをしたら、再資源化のコストが上がりすぎて、リサイクル製品はとても高額になってしまいます。
分別したプラスチックを再資源化し、有効利用する方法は、マテリアルリサイクルとサーマルリサイクルに大別されますが、日本では(プラスチックに限らず)商品として再生するマテリアルリサイクルに注目が集まりがちです。しかし、(あくまで一般論ではありますが)世の中に出回っている多くの製品は、原料から厳選して作られているため、複数のプラスチック素材が混在した状態では原料にできないケースが多いのです。
「100%ペットボトルを原料とした」とうたう洋服やバッグなどがありますが、ペットボトルはポリエステルを原料としていますので、単一の原料を取り出すことが可能な資源として重宝されています。
では、日野市クリーンセンターなどで回収されたプラスチックが何に生まれ変わるかというと、複数のプラスチックがまざっていても問題のないもの、例えばプラスチックパレット(プラパレ)などに再生されています。
余談ですが、リサイクル原料を用いたプラパレ(再生パレット)って、普通のプラパレ(バージン素材のプラパレ)よりもはるかに重いです。強度を出すために強く圧縮することが原因なのですが、それゆえに限られたトラックの積載量を圧迫し、本来運ぶべき貨物の量を減らさざるをえないといったデメリットが、再生パレットにはあります。
一方、プラスチックを燃やした熱を資源として回収するサーマルリサイクルは、プラスチックの種類を問いません。収集されたプラスチックを原料として作られる「RPF」(Refuse derived paper and plastics densified Fuel)は、石炭やコークスの代替燃料として、製紙工場、鉄鋼工場などで使われています。
サーマルリサイクルって、とても効率的で優れたリサイクル方法です。でも、日本ではことさらにマテリアルリサイクルが重視され、サーマルリサイクルについては評価が低くなりがちです。
用途や目的、もしくは費用対効果などを鑑み、適切にマテリアルリサイクルとサーマルリサイクルを使い分けたほうが良いと思うのですが、なかなか難しいのでしょうね。
「ごみの処理を日々担っている立場から、一般の人々に対し、意識して欲しいことはありますか?」──細谷さんにこんな質問をしてみました。
細谷さんは、以下のように答えてくださいました。
「まず、ごみを減らすことを意識してください。そして、ごみを出す場合にはきちんと分別してください」
例えば、最近大手スーパーを中心に広がっている、写真のような真空スキンパック包装は、ごみの減量につながります。肉の酸化を抑えるため、鮮度保持期間が長くなるというメリットもあるそうです。
「コロナ禍で欠かせなくなったマスクもそうですね。店頭では、マスクを一枚ずつ個包装をしているタイプのものと、そうでないものが売られています」と細谷さんは指摘します。
もちろん、「あなたにとって個包装されていることが必要なのであれば、個包装のマスクを買うべきです」と細谷さんは補足しています。ただし、個包装の必要がなければ、ごみ減量化のため、個包装をしていないマスクを買うことで、私たちはごみの減量に貢献できるのです。
私たちが買い物をするときに、「これは本当に必要なのかな?」「こっちの商品の方が、ごみの減量化につながるのでは?」といった意識を少し持つこと。
これならば、私たちも比較的気軽に、ごみ問題に対して貢献できそうです。
上記写真は、プラスチックごみとともに捨てられた、プラスチックごみ以外のものです。もちろん、こういったものは(日野市に限らず)手選別によって取り除かれるわけですが、「手選別を行う」という作業自体にも、コストが掛かっていることを、私たちは忘れてはなりません。さらに言えば、写真中にある注射器等は作業をされている方々の手に刺さる可能性があり、とても危険でもあります。
ごみ問題って、つまるところは私たち一人ひとりの心がけ次第で、良い方向にも悪い方向にも転じるものなんですね。当たり前といえば当たり前なんですが、取材を通してあらためて学ぶことができました。
日々、買い物を行うときに、「よりごみを減らせるモノはどっちだろう?」とか、プラごみについても、面倒くさがらずに洗浄し、きちんと分別を行うだけで、ごみを大きく減らし、そして再資源化することで有効活用することができるようになるのです。
きっと、皆さまがお住まいの自治体でも、清掃工場の見学や、Webサイトでの情報発信等を行っているはずです。
どんなことをしているのか、調べ、そして学んでみるのもいいかもしれませんよ。
当社も、プラスチック製品を世に提供するメーカーの責任として、私どもにできることを地道に、しかし確実に行っていきたく考えております。
環境省がまとめた一般廃棄物処理実態帳調査結果(環境省)によれば、2020年度、国民一人一日あたりのごみ排出量の平均は901gとなっています。
人口5万人以上の市区町村における、住民一人一日あたりのごみ排出量ランキングを、排出量が少ない順番にご紹介しましょう。
順位 | 都道府県名 | 市区町村名 | 総人口 | 住民一人一日あたりのごみ排出量(g) |
1 | 静岡県 | 掛川市 | 117175 | 616 |
2 | 香川県 | 三豊市 | 64485 | 630 |
3 | 長野県 | 伊那市 | 67290 | 642 |
4 | 東京都 | 日野市 | 186992 | 648 |
5 | 長野県 | 佐久市 | 98728 | 651 |
6 | 東京都 | 小金井市 | 123427 | 655 |
7 | 東京都 | 立川市 | 184439 | 673 |
8 | 京都府 | 向日市 | 57371 | 681 |
9 | 東京都 | 府中市 | 260324 | 684 |
10 | 熊本県 | 合志市 | 62958 | 685 |
日野市は、ランキング4位に入っている、名実ともにごみ対策が進んでいる街なのです。
とは言え、日野市も最初から優等生だったわけではありません。1999年時点では、可燃ごみは多摩地区ワースト4位、不燃ごみは多摩地区ワースト1位、リサイクル率は多摩地区ワースト1位でした。
この状況を憂いた日野市では、2000年からごみ改革を開始、現在は2018年に制定された第3次ごみゼロプランにもとづいて、ごみゼロ社会の実現を目指しています。
その軌跡と取り組みは、以下の日野市広報のYoutube動画で確認できます。
また、日野市クリーンセンターから西に数百メートルの場所にある石田環境プラザでは、日野市のごみ対策の取り組みを発信するとともに、地域のコミュニティ、防災拠点としての役割も果たしています。
日野市 環境共生部 ごみゼロ推進課 課長の高尾満さん、日野市 環境共生部 施設課 課長補佐の細谷雄二さん、取材にご協力いただきありがとうございました!