改正された物流関連2法ってなに?

 2024年4月。改正物流関連2法が成立しました。
 改正物流関連2法は、運送会社、倉庫会社はもとより、メーカー、小売、卸などの荷主などに対しても大きな影響を与えます。

 改正物流関連2法のポイントを、荷主側の目線から、なるべくかんたんに説明しましょう!

そもそも、物流関連2法は、なぜ改正されたの?

 「物流の2024年問題」に関しては、皆さまの耳にしたことがあるのではないでしょうか?
 「物流の2024年問題」とは、2024年4月1日以降、トラックドライバーの残業時間に対し、上限規制が課されることによって生じる諸問題を総称したものであり、現在直面している物流クライシスのひとつです。

 物流クライシスに対抗するために、岸田内閣が打ち出したのが、「物流革新」政策です。

  • 2023年6月に発表された「物流革新に向けた政策パッケージ」
  • 同日発表された「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」
  • 2023年10月に発表された「物流革新緊急パッケージ」

 他にもあるんですが、本稿では割愛します。
 とにかく、この文脈上で法制化されたのが、今回の物流関連2法です。

 なので勘違いしがちなのは、「荷主や物流事業者が行うべきこと」は、物流関連2法だけに書かれているわけではありません。
 例えば、荷主や倉庫会社を震撼させている(大げさ?)、「荷待ち・荷役の2時間以内ルール」は、物流関連2法ではなく、「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」の方に記載されています。

 

 誤解を恐れずに簡単に言えば...

  • 罰則を伴わない指針については、「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」に記載
  • 罰則を伴うルールについては、物流関連2法に記載

 こういった枠組みになっています。

 ただし、これまた勘違いしてはいけないのが、直接的に罰則が設けられていない(あるいは物流関連2法でも、努力義務にしかなっていない)項目でも、例えば下請法によって罰則を受ける可能性がある行為もあり、あるいは公正取引委員会によって指導や処分を受ける可能性があります。

 先の「荷待ち・荷役の2時間以内ルール」を守らなかった場合は、「中長期的な計画を遵守できなかった」(※後述)として、物流関連2法で処分をうける可能性がまずあります。加えて、2時間以上の待機・荷役時間に対し、待機料金・荷役料金などを運送会社に支払わなかった場合、下請法違反、あるいは「優越的地位の濫用」として、公正取引委員会に摘発される可能性があります。

 ちなみに、「荷待ち・荷役の2時間以内ルール」は1回の積み卸しではなく、1回の運行が対象となります。複数個所の積み卸しが発生する運行では、要注意です。

 

 話を戻します。
 今春行われた物流関連2法の改正は、あくまで物流クライシス対策のひとつでしかありません。
 そのため、荷主に課される義務や取り組みを理解するためには、「物流革新」政策全体の枠組みを理解しておく必要があります。

物流関連2法で、荷主が行うべき取り組みとは

 まず行うべきは、運送契約の書面化です。
 実際のところ、運送会社との受発注って、メール、FAX、あるいは口頭で行っているケースも多いでしょう。

 また合わせて行わなければならないのは、付帯作業をきちんと契約書に記載することです。
 今まであいまいな状態で、運送会社(≒トラックドライバー)に対して行わせていた自主荷役(※ドライバー自身にフォークリフト等を運転させ、荷物の積み卸しをさせること)や棚入れなどを任せていた荷主は、これらの付帯作業をきちんと契約書に記載したうえで、その対価も設定する必要があります。

 また、手積み手卸し料、あるいは待機時間料などもきちんと契約書中で、あらかじめ定めておく必要があります。

 このあたりは、「標準的な運賃」に詳しくモデル運賃が記載されています。

 運送契約を書面で取り交わすことは、改正物流関連2法で明示されています。
 一方で、付帯作業に関する料金を支払わないといったケースでは、公正取引委員会、あるいは国土交通省内に設けられたトラックGメンから処分を受ける可能性があります。

新たなキーワード、「特定荷主」「中長期的な計画」「物流統括管理者」とは

 荷主のうち、荷物の年間取扱量が基準重量を超えた事業者は、「特定荷主」となり、「中長期的な計画」の策定と、「物流統括管理者」の選任が必要となります。

 基準重量の値については、まだ確定していません。
 ただ、政府としては世の中の荷主の半分程度が特定荷主になるように、基準重量を定める心づもりと言われています。

 特定荷主になると、「中長期的な計画」を作成し、国に提出する義務が発生します。
 ざっくりと言うと、中長期的な計画では、自社の物流を効率化し、無理や無駄を解消するための改善策を策定することになります。そのうえで、中長期的な計画に対する実績(改善の進捗)を毎年報告する義務も生じます。

 中長期的な計画については、既に定め、公表している企業や業界団体もありますが。
 参考となる雛形やガイドラインについては、今後公表されるのでしょう。

 中長期的な計画について、その作成と予実管理の責任を負うのが「物流統括管理者」です。
 改正物流関連2法では、物流統括管理者について、「物流統括管理者は、特定荷主が行う事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者をもって充てなければならない」としており、物流統括管理者の氏名および役職は、国に報告しなければなりません。

 物流統括管理者については、先行する情報で「役員以上じゃないと駄目ですよ!」という話もあったのですが、改正物流関連2法における書きっぷりを読んでもよく分かりません。いずれ発表されるガイドラインにおいて、本点は補足されることなるでしょう。

 

 ちなみに特定荷主が行うべき取り組みをサボった場合には、勧告・公表・命令のいずれかが下されます。かなり厳しく、物流クライシス対策に対する政府の本気度がうかがえます。

改正物流関連2法が保護しようとするのは、あくまで物流事業者だが...

 筆者は物流ジャーナリストを表看板に掲げており、物流関連2法の改正についても、既に某Webメディアに解説記事を上梓しています。
 その記事について、こんな質問を頂きました。

 

「弊社製品は、一部のお客さまに納品する際、お客さまのご要望に応じたラベル貼り等の流通加工を行っています。しかし、例えばラベルの発行費用や、あるいは貼付作業費用などは請求できていません。
 物流2法改正によって、このような製品販売に伴う物流コストを請求できるようになるのでしょうか?」

 

 そもそもの話として、改正物流関連2法を含む「物流革新」政策では、保護されるのは運送会社を始めとする物流事業者です。物流従事者ではない、買い手と売り手の間にある不平等な業務──たとえそれが物流に関する業務であったとしても──を是正することは目的にしていません。

 ただし、先の質問は、独占禁止法におけるポイントのひとつである、「優越的地位の濫用(らんよう)」に抵触する可能性が高いです。

「優越的地位の濫用とは,自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が,取引の相手方に対し,その地位を利用して,正常な商慣習に照らし不当に不利益を与える行為のことです。この行為は,独占禁止法により,不公正な取引方法の一類型として禁止されています」
出典:公正取引委員会

 優越的地位の濫用の事例として記憶に新しいのは、金型保管の問題です。

 話が物流関連2法からずれてしまいますが、優越的地位の濫用については、コンプライアンス意識の高まり、優越的地位の濫用に対する理解の広まりなどもあり、以前よりは買い手側との交渉が行いやすい環境が整いつつあります。

 「困っているんだよなぁ」という、無償の付帯作業を要求されている場合は、まずお客さまと交渉するべきでしょう。

 

 話を改正物流関連2法に戻します。
 物流関連2法は改正されたものの、施行までにはまだ時間があります。これから、法律を実運用レベルにまで解説したガイドラインが次々と公開されるはずです。

 「物流革新」政策は、まだ始まったばかりです。
 情報を取り逃し、当局からの指導や処罰などを受けないよう、情報のアンテナをしっかりと張っておいてくださいね。

参考 物流関連2法とは

 2024年4月26日、参議院本会議で改正案が可決され、成立した物流2法とは、以下のふたつの法律を指します。

  • 物流総合効率化法(物効法)
    「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律」から、「物資の流通の効率化に関する法律」に改称。
    荷主および物流事業者に対し、物流効率化に対する取り組みを定めた内容となっています。

  • 貨物自動車運送事業法(貨物事業法)
    貨物事業法は、トラック事業者の事業遂行における取り組みを定めた内容となっています。

 物効法の全文は、こちらのリンク先にあります。
 貨物事業法の全文は、こちらのリンク先にあります。

 左上にある「施行日」のプルダウンを選択・変更すると、それぞれ施行予定とその全文が確認可能です。
 より深く興味を持った方は、法律全文を確認することをオススメします。



▲ページトップに戻る