和泉'sブログ このサイトは、和泉の今をお届けするブログサイトです |
「産業用ロボットは、人の仕事を奪う」──多くの人は、このように考えているのではないでしょうか?
ところが最新の研究や事例を見ていると、どうもこれが間違っている...、控えめに言っても、「必ずしも正確ではない」ことが分かってきました。
こんな記事がありました。
記事中では、カナダ政府が公開している企業の財務データや雇用データなどを分析したある大学の研究成果を紹介しています。
詳しくは記事をご覧いただくとして、ざっとポイントを挙げましょう。
詳細は後述しますが、筆者が取材した物流ロボット導入現場では、「10~40時間程度のトレーニングを必要とする作業員」(中スキル作業員)の仕事が消滅し、代わりに「数分のレクチャーで実施可能な仕事を担う作業員」(低スキル作業員)が増えていました。
作業員の総人数(総工数)は大幅に減っています。
ただし、これまでは低スキル作業員では担うことができなかった業務、すなわち中スキル作業員が必要だった業務がロボットに代替され、現場では、監督者以外、すべて低スキル作業員だけで運用することが可能になっていました。(それも異なる企業における複数の現場においてです)
「AI・ロボットが奪うのは、『中スキル労働者の仕事』」というのは、こういうことなのでしょう。
別の記事をご紹介します。
ポイントを挙げましょう。
この会社(金型製作、プレス加工の有川製作所(石川県金沢市))では、リスキリング※を行い、既存の従業員に対し、より高度だったり、あるいはまったく別のスキルを身に付けてもらったようです。
このあたりに、「『ロボットは人の仕事を奪う』...のは、どうも間違いらしい」という本稿テーマのポイントがあります。
※リスキリング
業務、あるいはビジネスの変化に対応するため、新たな知識や技術、スキルの学び直しを行うこと。
最近物流現場で導入数が増えているAMR。このロボットは、最近のヤマト運輸CMでも登場します。
最近、AGVやAMR※といった物流ロボットが、注目を集めています。
かんたんに言うと、AGVやAMRは「荷物を運ぶロボット」です。物流ジャーナリストが表看板の筆者は、今年に入ってから複数の企業、複数の現場におけるAGV・AMRの導入事例を取材したのですが、本稿テーマに通じる興味深いポイントがいくつもありました。
3.を行った企業では、年間売上数億円レベルの仕事が3つも増えました。当然、人員も大幅に増やしています。
※AGVは、床に誘導用のチップやマークが必要な荷物搬送ロボット。AMRはWi-Fiなどから自車位置を取得し、より自由な走行ができる荷物搬送ロボット。
搬送する荷物重量は、数kg~数百kgまで、さまざまなAGV・AMRが登場しています。
もちろん、こんな景気のよい事例ばかりではありません。
私が取材したRPAの導入現場では、表向きは大幅な工数削減を実現しましたが、社長は困り果てていました。
RPAとは、PCの中で動く、いわばホワイトワーカーのための産業用ロボットのこと。
その会社(以下、A社とします)では、請求関連業務(発行、受領、支払い処理、入金処理など)をRPAによって自動化しました。
A社は、請求書の発行および受領先社数が、トータルで千社を超えています。対して、経理担当者は女性1人(以下、B嬢とします)だけ。結果として、一ヶ月のほとんどを請求関連業務の遂行に費やしていました。
RPAによって請求関連業務を自動化したところ、千件をゆうに超える請求書の処理が、わずか4~5時間で完了できるようになったそうです。
「素晴らしい導入効果じゃないですか!!」と称賛する私に、A社社長は苦々しげに答えました。
「いや、私が本当に期待していたのは、省人化じゃないんですよ」
A社がRPAを導入したのは、B嬢の結婚がきっかけでした。
「結婚して東京から新幹線で1時間ほどの場所に引っ越すので、今までどおりの仕事や働き方はできません」、B嬢にこのように言われたA社社長は、これを好機と考え、B嬢と会社のため、テレワークとRPAを導入しました。
「社長、RPAを導入していただいてありがとうございます。おかげで、無理なくテレワークを行いながら、仕事も大幅に楽になりました」
B嬢にはこのように感謝され、実際本人もとても楽しそうなのですが、A社社長はぼやいています。
「私は、B嬢に期待していたんですよ。
経理だけではなく、当社にはまだまだ無駄で人力に頼った業務がたくさんあります。B嬢には、RPA導入の経験を活かし、請求業務以外の他業務でも、改善活動のリーダーシップを取ってほしかったのですが...」
ところがB嬢は、RPAによって生じたはずの大量の空き時間を、日々なんとなく雑務をこなして消化しているのだとか。
「私は、B嬢に楽をさせるためにRPAを導入したわけではありません」
A社社長の嘆き、もっともですよね。
ロボットの導入は、従業員に(さらに言えば、「経営者や会社に」)楽をさせることが目的ではありません。
私たちの仕事には、どうしても付加価値の低い仕事(手間はかかるが生産性の低い仕事)が含まれています。そういった仕事はロボットに任せ、創造性や付加価値の高い仕事に集中することで、生産性を高め、ひいては企業価値を高めることこそが、ロボット導入の本来の目的のはずです。
だから、コスト削減だけを目的としたロボット導入は、実はNGなんですよね。
なにより、コスト削減だけを目的にロボットを導入した会社では、当然、「人の仕事はロボットに奪われる結果」になります。
しかし、事業や売上の拡大を目的とし、「従業員には、より創造性の高い、高付加価値の仕事に集中してもらう」ために、ロボットを導入した会社では、売上が増え、仕事が増えていくはずですから、従業員数は現状維持か、もしくは増えていくはずです。
でも、しんどいですよ、これ。
従業員は、新たな知識やスキルも身に付けなければなりませんし、そもそも今までより難しい仕事へとチャレンジすることを強いられるわけですから。
言ってみれば、「ロボットに人の仕事を奪われてしまう」会社や現場って、前時代的なのでしょう。つまり、「ロボットは、人件費削減のために導入する」ことを主たる目的にすること自体が、産業用ロボット黎明期ならばともかく、現代の経営感覚にマッチしないということです。
ロボット導入の第一義は、あくまでビジネスの進化と拡大のため。
人件費の削減は副次効果と考えるべきでしょう。
なお、本稿のテーマと外れるため議論から省いていましたが、人手不足解消のため、新たな労働力の確保を目的としてロボットを導入するのは、筆者もアリだと考えています。
人手不足が深刻な課題になっている物流現場においては、労働力を代替させるためにロボットを導入した結果、競合他社との差別化施策として活用できるようになった事例が多数あります。
もし、「ロボットなんて導入したら、私の仕事が奪われてしまうよ!」と恐れている方がいらっしゃるのであれば。
その認識の方をアップデートしないと、会社に、あなたの居場所はいずれなくなってしまうかもしれませんよ。